アモンはオシャレな女の子。
オシャレをすると、幸せな気持ちになるんです。
彼女の夢は美容師さん。
美容師さんになってみんなを幸せな気持ちにしてあげたいって思っていたので、夢がかなって憧れのお店で働けることになって、とてもはりきっていたんです。
それなのに・・・
「えっ、アモンちゃん、いつもと色が違うわ」
「こちらのほうが、お似合いですよ!」
「私のはちょっと派手すぎない?」
「どうして?とっても素敵なのに!」
彼女が担当した どのお客さんも、浮かない顔。
「アモンちゃん、今日はもういいわ」
憧れの店長さんにそう言われ、アモンはふてくされて店を出ました。
「みんなオシャレにしてあげたのに!前より素敵になったのに!どうして分かってくれないの!?」
気がつくと、あたりは真っ暗。
森の中に、アモンはひとりぼっち。
「私、どうしてここに・・・?お店は・・・」
振り返っても何も見えません。
暗闇の中、ざわざわと木の葉たちが囁き始めます。
『役立たずめ!』
『なんて自分勝手!』
「違う!そんなことないもん!みんなが分かってくれないだけ・・・!!」
アモンは怖くなって走り出しました。
暗闇の中に、小さな泉が浮かび上がりました。
キラキラとした輝きに、アモンは足を止めました。
「綺麗な泉・・・私、どこかで見たことある・・・。そうだ、小さい頃お母さんに読んでもらった本に載ってたわ。これは・・・」
――終わりの泉・・・
必要とされなくなったぬいぐるみが、還る場所――
「・・・うまくできないから、私、要らないぬいぐるみになっちゃったのね」
アモンの目から涙がこぼれます。
涙をぬぐうように、泉がそっと手を伸ばし、アモンを優しく包んで――
アモンは泉の中へ――
気がつくと、優しい光の中、アモンは柔らかいタオルに包まれていました。
アモンは体を起こしました。
少し湿っていたけれど、どこも壊れてはいないようです。
「・・・ここはどこ?」
あたりを見回して、アモンははっとしました。
そこは見たこともない大きな美容室でした。
真っ白い壁と、木の温もり・・・。
「君は店の前に倒れていたんだよ」
声のする方へ振り返ると、素敵な男の人がアモンを見ていました。
右手には7連の指輪。
腰に巻いた革のケースから、黒いハサミと赤いクシが見えました。
「あなた、美容師さんなの?」
彼は頷きました。
「私も!私もそうなの!」
アモンは嬉しくて叫びました。
けれど、すぐにその声はしぼんでしまいました。
「でも、誰も喜んでくれなかったの。オシャレにしてあげたのに・・・」
「君の夢は、お客さんをオシャレにしてあげることだったの?」
「そうよ!だってオシャレしたら、とっても幸せな気持ちになって・・・」
そこでアモンははっとしました。
大切なことに気が付いたのです。
「違うわ、オシャレにしたかったんじゃないの。幸せにしたかったの!どうしよう、私とっても自分勝手だったわ。みんなに謝りたいわ!・・・でも、もう縫々王国には戻れないのね!」
アモンは泣き出しました。
「君は縫々王国から来たの?」
彼がたずねました。
「そうよ。とっても素敵な国なの!だけど要らないぬいぐるみになっちゃったから、もう忘れられちゃうの!お母さんもお父さんも、アモンのこと忘れちゃうんだわ!」
「アモンって君の名前?」
泣きながら頷くアモンに、彼は驚くようなことを言いました。
「このお店の名前も、アモンっていうんだよ」
「えっ・・・」
驚いて顔を上げたアモンに、彼は優しく言いました。
「縫々王国のことは知っているよ。きっと君は、僕に呼ばれてこのお店に来たんだ。必要とされて、来たんだよ」
「そうなの?私、消えてないの?」
ポロポロと涙をこぼすアモンの頭を、彼が指輪の手で優しくなでました。
その心地よさは、アモンにとって初めての感覚でした。
まるで体がふわりと宙に浮くような・・・幸せな心地でした。
魔法の指輪かしら?と思ったくらい・・・。
「私、このお店で働きたい!ここで働かせてください。しっかり修行して、みんなを幸せにできる美容師さんになります!」
「うん。よろしく頼むよ、アモン」
これが、アモンと美容室『AMON』の、はじまりのお話です。
おしまい
アモンのその後のお仕事ぶりは
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